この作品は7月の「アトリエヒュッテ展」に出品されたsatoharuさんの、
国際ゴシック様式で描かれたデッサンです。国際ゴシック様式とは、1370年ごろから1420年ごろにかけてヨーロッパ各地で制作された,絵画を中心に彫刻,工芸に共通してみられる様式であり、14世紀中葉,教皇の都アビニョンと皇帝カール4世の都プラハでの造営事業を通じて本格化したものです。
その特徴の1つに、このデッサンのように画面の上へ、上へと空間を広げていって、細部までこと細かに風景などを描きこむ手法があります。遠近法が開発される前の、誠に合理的な絵画空間の処理と言えましょう。宗教画などの場合だと、この手法だと同じ人物を何度も同一画面に登場させやすい、物語を伝えやすいという利点がありました。透視図法的な遠近法の絵画空間では成立しない見事な絵画でした。このデッサンでも中央あたりに人物の姿が見えるのがお分かりになると思います。
代表作としてはH・S・マルティーニらシエナ派、ファブリツィアーノ、ランブール兄弟「ベリー公の《いとも豪華な時裳書》」ほかがあります。
また、国際ゴシック様式の美術は、王侯の生活を飾る家具調度,衣服から祈裳書,祭壇画にいたるまで宗教的,世俗的題材を問わず,繊細,優雅な形態と華麗な色彩による装飾美が追求され、そのために「宮廷美術」と性格づけられることもありました。このような様式化によって全般的に夢幻的雰囲気をただよわせる一方,挿話的描写を克明に盛りこみ,動植物から季節感(たとえば雪の表現)にいたるまで自然観照に基づく写実が細部に示されているのも特色です。
このデッサンは積極的に国際ゴシック様式を取り入れた、非常に貴重な作品です。回りの波型は、satoharuさんがご自分で工夫して作られた額のマットで、これまた作品とよく合っています。
古典技法を積極的に取り入れる制作もいいものですね。