演習コース

第26回 演習コース(2014.7.5開催)

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第26回の演習コースは、第25回に続きまして、「東洋美術と西洋美術の融合を作品化する」がテーマです。
モチーフとして、BRUTUS特別編集「合本・日本美術がわかる 西洋美術がわかる」を使用します。
日本人が西洋美術の技法で制作する場合、画面などに様々な日本独特の要素を組み入れようとする場合があります。
今回の演習では、表面的な引用ではなく、本質的な引用を目指します!
さて今回はまず作品のご紹介から始めたいと思います。
マムマムさんの作品です。
テーマとして「空しさ・はかなさ」を、設定し、西洋と東洋、それぞれの特徴のある表現を意識して描きました。
大変完成度の高い作品ですね。
 
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上部からの光はジャン・ロレンツォ・ベルニーニ「聖テレサの法悦」の彫刻の光から来ています。
「能面 若曲見」と「十二神将立像 未神」が、綺麗な対比を見せています。
サトミちゃんからは、「力強さを感じる。空しさだけではない」とのご意見が出されました。
 
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未神の横顔の表現、明暗法によって西洋の立体表現を感じますね。
じつは、未神の視線は聖書に注がれていて、その工夫が画面に緊張感を与えています。
 
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左上には、装飾的な雲の狭間からの光が描かれ、これは誠に東洋的です。
技法的にも、光沢のある雲とマットな空の対比が面白いです。
マットな空は油絵具の上からペィンティングナイフで削ってカンヴァスの目を出して、
まるで、和布の「絣」のような効果になっています。
これらの空間表現の技法に関しては、西洋的なものと東洋的なものが逆になっています。
 
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ムンクの叫びの人の視線も聖書の方に引きつけられています。
光琳の「白梅図・紅梅図」の描写も見事で、サトミちゃんからは「モチーフそのものに意味性が強いので、気持ちを全面に出さなくても充分意味が通じる」とご意見がありました。
 
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画面左にはドクロと聖書、手紙や羽、蝋燭など、ピーテル・クラースPieter Claesz作「ヴァニタス」のモチーフがあります。
スズキさんからは、「茶系色をベールにしてトーンを抑えているので、仏像・能面・髑髏・ムンクの色のバランスがいい」「バックのマットな表情が日本画の技法そのもので、マティエールの凹凸をあまり付けずに絵が成立しているのが凄い」とご意見を頂きました。
聖書のページには「空の空、すべては空しい」と、書かれています。
マムマムさんの表現はとても面白く、無理のない画面になっています。
 
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続きましてスズキさんの作品です。
こちらは修作で、風景を色面的に表現してみました。
東洋と西洋の、主観的な融合と言えそうですね。
 
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スズキさんは今回の課題の為に、まず浅間山までスケッチに行かれました。
これが、そのリアルな表現でのスケッチです。
流石に上手いものです。
 
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そして、それを展開した作品です。
まだ途中段階のようですが、目標としては西洋と東洋の本質的な融合による表現。
浅間山のスケッチを元にして、日本的な所からスタートする。
この段階から油絵具を使って色面構成を進めたい。
ヤスリで削るなどのマイナスの色面も視野に入れるとの事。
サトミちゃんからは「版画みたいな、黒い線が日本的で面白い。」とのご意見がありました。
スズキさんは、いつもは線を消すけれど、今回は残すそうです。
自宅ではこの構成でS12号の作品も制作されています。
縦や横の線はリアルな山の稜線の単純化なのではないかと思います。
ここから、さらに突っ込んだ抽象化も出来そうですね!
この作品は板にテンペラで描かれています。
 
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サトミちゃんの作品です。
「自分がスーラになって、日本画に影響を受けて、制作する」という設定です。
その発想が素晴らしいです!
精密なスーラの「グランド・ジャット島 の日曜日の午後」の流れるような空間・モチーフを日本画的な前景-中景-後景に処理しています。
バックの湖は立ち上がらせ、銀箔を貼ったような表現になっています。
スズキさんからは「画面手前右のあじさいは線的な日本が風の表現がいいのではないか。」とご意見がありました。
それは面白いと思います。
マムマムさん、「犬の傍に扇子が置かれているのもジャポニスムですね。」と仰られていました。
この作品は現在も通常授業で制作続行中です。
完成したらご紹介しますね。
 
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制作中のマムマムさん。
 
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制作中のスズキさん。
 
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制作中のサトミちゃん。
 
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サトミちゃん、さまざまな図版を駆使しています。
西洋と東洋の融合は面白いけれど大変高度な仕事になりますね。
 
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ディスカッションでは、本当に様々な意見が出されました。
 
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「私だったらこの続きはこうする・・」というアイデアはとても貴重なものです。
まさに「三人寄れば文殊の知恵」ですね。
 
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サトミちゃんが、引用した光琳の作品を紹介します。
 
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内容的にとても深い意見交換会になりました。
 
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マムマムさんの作品は語り所が多く、様々な意見が出ました。
 
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今回の課題は他にも色々な展開が可能ですので、是非、別のパターンも試してみて頂きたいと思います。
 
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ピーテル・クラースPieter Claesz「ヴァニタス」です。こちらは今回の配布資料には出ていません。マムマムさんがご自身で探してこられました。ヴァニタス(ラテン語: vanitas)とは寓意的な静物画の ジャンルの1つです。16世紀から17世紀にかけてのフランドルやネーデルラントなどヨーロッパ北部で特に多く描かれました。以後現代に至るまでの西洋の美術にも大きな影響を与えています。ヴァニタスとは「人生の空しさの寓意」を表す静物画であり、豊かさなどを意味する様々な静物の中に、人間の死すべき定めの隠喩である頭蓋骨や、あるいは時計やパイプや腐ってゆく果物などを置き、観る者に対して虚栄のはかなさを喚起する意図をもっています。メメント・モリの精神に近いですね。
 
さて8月の演習コースはお休みになります。次回第27回演習コースは、9月6日(土)17:00からになります。ご希望の方はお早めにお申し込みください!

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